サーキット走行をする人達の多くは、ブレーキフルードを購入する際に沸点ばかりに目が行きがちで、そのフルードがDOT規格内か、規格外なのかはほとんど気にしていない印象を受けます。サーキット専用車輌を保有する方であれば全く問題ないのですが、普段は街乗りそして年に数回サーキット走行される方であれば、DOT規格内か規格外かをもう少し気にするべきです。なぜなら、DOT規格に適合していないブレーキフルードを長期間使用し続けると周辺部品の腐食が早くなったり、真冬時のブレーキ操作において(特に朝一番のブレーキングで)ABSの作動性が悪くなる恐れがあるからです。意外に知らないことが多いブレーキフルードについて調べようとしても文献やデータがなかったり、あったとしても非常に難解であったりします。
『誰にでもわかるブレーキフルード講座』はブレーキフルードに関することを非常にわかりやすく説明しておりますので是非、ご一読下さい。
簡単に言えば日本のJIS規格のようなもので、アメリカの交通省(Department of Transportation)の略です。このD.O.Tで設定されているFMVSS基準 (Federal Motor Vehicle Safety Standard 米国自動車安全基準)において様々な項目からブレーキフルードを以下のように規格分類しています。
基 準 | 主成分 | ドライ沸点 | ウェット沸点 | 粘度(100℃) | 粘度(-40℃) | ph値 |
---|---|---|---|---|---|---|
DOT 3 | グリコール | 205℃以上 | 140℃以上 | 1.5cst以上 | 1500cst以下 | 7.0-11.5 |
DOT 4 | グリコール | 230℃以上 | 155℃以上 | 1.5cst以上 | 1800cst以下 | 7.0-11.5 |
DOT 5.1 | グリコール | 260℃以上 | 180℃以上 | 1.5cst以上 | 900cst以下 | 7.0-11.5 |
DOT 5 | シリコン | 260℃以上 | 180℃以上 | 1.5cst以上 | 900cst以下 | 7.0-11.5 |
文字通り液体が沸騰する温度です。水の沸点は100℃であり、ブレーキフルードの沸点は高いフルードで300℃以上、低いフルードで140℃くらいです。
山道やサーキットでスポーツ走行をするとブレーキパッドの温度は300℃以上になります。この熱がキャリパーを通してブレーキフルードに伝わり、フルードの温度が200℃以上になることもしばしばあります。沸点が200℃以下になっているブレーキフルードでこのようなスポーツ走行を繰り返すとフルードが沸騰してしまい液体が気化して沢山の気泡が油圧ラインの中に現れてきます。こうなるとブレーキペダルをいくら強く踏んでも気泡を圧縮するだけでブレーキが全く作動せず、非常に危険な状態になってしまいます。この状態のことを【ベーパーロック現象】と呼びます。
ブレーキフルードの主成分であるエチレングリコールは空気中の水蒸気を吸収する性質を持っています。この水蒸気の吸収率のことを吸湿率と呼びます。
空気の中に含まれる水蒸気の割合を湿度と呼ぶのと同じようなことです。
答えはYESでもありますが、決してそう限ったわけではありません。正しくは成分、用途に区分けされているということです。
規格 | 用途 |
---|---|
DOT3 | 一般車輌用(小中排気量、軽量車) |
DOT4 | 一般車輌用(大排気量、重量車)、スポーツ走行用 |
DOT5.1 | 一般車輌寒冷地用(大排気量、重量車)、スポーツ走行用 |
DOT5 | 主成分シリコン 特殊車輌用(ハマー、ハーレーダビッドソン) |
主な違い | DOT3 vs DOT4 | 沸点 |
---|---|---|
DOT4 vs DOT5.1 | 沸点、低温粘度特性 |
DOT5.1は沸点が高いだけではなく、低温での粘度特性が厳しく定められており、北欧などの寒冷地ではDOT5.1規格のブレーキフルードが一般車用としてしばしば使用されております。現在、市場で流通しているDOT4の大半はドライ沸点が270℃前後、ウェット沸点が170℃前後で、沸点値だけを見ればDOT5.1に近い性能を持っております。しかし、低温の粘度特性においては明確な差があります。ABSが主流となった現代、欧米(特に北欧/カナダ)では低温時の流動性を考慮して、DOT5.1クラスのブレーキフルードが新車時から使用され始めています。
レース用ブレーキフルードの大半はサーキットのみでの使用を前提に開発されており、沸点の面ではDOT5.1を軽くクリアしておりますが、低温粘度特性やpH値の面でDOT規格をクリアできておりません。したがってDOT規格には該当しない仕様となっております。
答えは簡単です。技術的に難しいこととコストが割高になるからです。低温の粘度特性をDOT4規格内でキープし、かつpH値を7.0以上で保ちながら、320℃以上のドライ沸点を実現させることが技術的に難しく、生産コストも割高になるためです。レース用フルードの大半は低温粘度特性かpH値のどちらかが犠牲になっております。
DOT規格をクリアしているレース用ブレーキフルードなら全く問題ありません。DOT規格に適合していないブレーキフルードを長期間使用し続けると周辺部品の腐食が早くなったり、真冬時のブレーキ操作において(特に朝一番のブレーキングで)ABSの作動性が悪くなったりしますのでご注意下さい。
サーキットと街中でブレーキフルードを使い分ける人で、かつ走行会ごとに毎回新品のフルードに交換される人ならDOT規格に適合していないレース用ブレーキフルードを使っても問題ありません。一般道、サーキットとステージが変わっても交換せずに同じフルードを使用したい人はDOT規格に適合したレース用フルードもしくはDOT5.1やスーパーDOT4などが好ましいです。
街中だけの使用で、かつDOT4以上のブレーキフルードを使用しているのであれば車検ごとの交換で問題ありません。DOT3をお使いの場合は一般道だけの使用でも1年ごとの交換をお奨めします。また、ワインディングを頻繁にドライブされる場合は半年〜1年おきに交換することが好ましいです。レースや走行会などに参加される場合は必ず走行前に新品と交換されることをお奨めします。
沸点値はDOT5.1規格をパスしているが、低温粘度特性がDOT4規格の品物に付けられた俗称です。
低温粘度が柔らかいからと言ってサーキットでペダルタッチが柔らかくなることはありません。サーキット走行中のフルード温度は150℃以上になっており、その温度域での粘度特性はその他のグレードと大差ありません。また、ペダルタッチとフルードの粘性(粘度)に大きな相関関係はなく、ペダルタッチはフルードの中に吸収されている水蒸気の量で変わってきます。吸収されている水蒸気の量が少ないとタッチが固くなり、多いとタッチがスポンジーになります。
基本的にお奨めしません。
どちらもグリコール系のブレーキフルードでDOT規格をパスしているもの同士であれば機能的に大きな問題が出ることはありませんが、性能面においては平均値にならず、低い方の性能になってしまいます。混合は控え、全量交換をお奨めします。
乗用車で全量交換の場合は概ね800ml〜1L必要となります。(トラックなどはこの範囲ではありません。)また、フロントキャリパー部のみの部分的な交換の場合、300〜400mlあれば可能です。
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