ブレーキに関する知識

ブレーキに関する知識/《うんちく》ブレーキローター編

【 熱処理 】内部応力とは?

内部応力

ブレーキローターの素材である鋳鉄は、その製造段階での凝固に至る過程で金属組織間に内部応力を残留させます。(内部応力 : 材料内部の粒子間で引き合う力や、粒子同士が離れようとする力。)

通常の一般道での使用の場合、この内部応力は何ら問題を引き起こす事はありません。しかし、サーキットなどで高温で長時間使用した場合、この内部応力が放出され金属組織内の粒子が引っ張り合ったり、反発し合ったりしてひずみやクラックを発生させます。この内部応力を意図的に放出させ、均衡化し、ひずみやクラックを発生させにくくするのが、熱処理加工です。

【 熱処理 】効能表 熱処理品とノーマル品の比較
    ノーマルローター 熱処理ローター
耐クラック性 DC5 ワンメイクレース仕様でもてぎを
2分10秒でラップした場合
1時間使用で微細なヘアクラック発生 2時間使用で微細なヘアクラック発生
DC5 走行会仕様でもてぎを
2分20秒でラップした場合
2時間使用で微細なヘアクラック発生 5時間使用で微細なヘアクラック発生
耐ジャダー性 DC5 ワンメイクレース仕様でもてぎを
2分10秒でラップした場合
1時間使用後微細なジャダー発生 2時間使用後微細なジャダー発生
DC5 走行会仕様でもてぎを
2分20秒でラップした場合
2時間使用後微細なジャダー発生 4時間使用してもジャダー発生なし
  • ※上記テストは他社製ノーマルローターと弊社のHD(熱処理)タイプローター及びR01パッドを使用しています。
  • ※上記の時間はサーキットでの使用時間(走行時間)で、一般道の使用時間は含まれておりません。
  • ※上記数値は条件(天候、使用するパッド、車輌セッティング、ドライバー、ラップタイム)により大幅に変化します。
  • ※上記の数値はあくまでも一般的な目安として認識して下さい。
熱処理加工の工程とは?

熱処理加工の温度変化(仮)■熱処理加工の温度変化(仮)

弊社では熱処理加工の全工程において厳しい温度管理がされております。
具体的な時間や温度は企業秘密ですので公表できませんが、仮の数値でご説明致します。

まず、10分おきに5℃ずつ温度を上げていき、300℃に到達したところで8時間、同温度で加熱し続けます。 また、その後10分おきに5℃ずつ温度を下げ、冷却します。グラフで見るとその温度コントロールは理想的であることが一目瞭然です。

熱処理加工の全工程は基本的に24時間掛けて行ないます。24時間という長い時間を掛け、完全な温度コントロールの下にゆっくりと熱処理加工を行なうことにより、ひずみを防ぎ、金属粒子の結束を固めて、耐熱性を向上させているのです。
※記載した熱処理加工の温度変化は仮の数値です。実際に弊社が行なっている熱処 理加工時間・温度とは異なります。

【 熱処理 】スリットの有無、熱処理の有無、サーキットでのメリットについて

結論から申し上げると効きを重視するならスリットタイプ(SD)を、そして耐久性を重視するなら熱処理タイプ(FP/HD)をお選び下さい。
なぜなら、スリットタイプは効きが上がる(自社テストでは摩擦係数が平均15〜20%アップしたというデータが取れております。)というメリットがある反面、パッドの摩耗が早くなるというデメリットもあります。 対して、熱処理タイプは効きという部分ではスリットタイプに劣るが、初期ひずみや熱倒れ、耐摩耗性、パッドの持ちという部分ではスリットタイプより優れているからです。その両方を満たしたモデルをお考えの方は熱処理スリットタイプ(FSやHS)をおすすめ致します。

ブレーキローターの材質について

ローターに使われる材質にはカーボンと鋳鉄とに大別されます。カーボンは熱に強く、非常に軽いといった利点がありますが、その分非常に高価なのでF-1等の一部の競技用としてしか使われておりません。一般的に使われているのは鋳鉄品で素材の中に含まれる黒鉛の形態によってねずみ鋳鉄(FC鋳鉄)/CV鋳鉄/ダクタイル鋳鉄の三つに大別できます。ねずみ鋳鉄(FC鋳鉄/片状黒鉛鋳鉄)は加工性に優れ、摩耗に強く、大量生産しやすいといったメリットがあり、純正品に多く採用されています。弱点として高温域(600℃以上)での激しい温度の上昇/下降を繰り返すと変形したり、クラックが入ったりすることがあります。 ダクタイル鋳鉄(FCD)は素材的には非常に優れた材質であり、鋼に匹敵する引っ張り強さを持ち、耐熱性(鉄の成長しにくさ)も高いです。代わりに表面硬度は柔らかく、ローターとして使用すると異常摩耗を起こしたり、また発熱性も高いのでブレーキの異常発熱を起こしたりもします。

CV鋳鉄(いも虫状黒鉛)は素材的にはねずみ鋳鉄(FC鋳鉄)とダクタイル鋳鉄の中間的な性質を持ちますが、製造工程における品質管理が非常に難しく、品質がねずみ鋳鉄(FC鋳鉄)になったり、ダクタイル鋳鉄になったりと安定させるのが大変困難であります。弊社では幾度にもわたる実車テストの結果からねずみ鋳鉄(FC鋳鉄)に特殊添加剤を加えたものを採用しています。純正品はFC(強度を表す単位)150〜200といった強度のものがよく使われますが、弊社ではFC200〜250の強度のものを使用して耐久性を高めるとともに、添加剤に工夫を施し、より熱変化に強いローターを提供しております。もちろん、精度、バランスが高レベルであることは言うまでもありません。

ブレーキローターの形状について

ブレーキローターの一番メジャーな形状として、「ソリッドローター」と「ベンチレーテッドローター」とがあります。
ベンチレーテッドローターは2枚の鉄板をあわせたような形をしており、その内部に風を通すことにより、効果的にローター自身を冷却することができます。現在の車のフロントブレーキはほとんどがこのタイプで、GT-Rやインプレッサなどの高性能車にはリヤにも使われたりします。さらにベンチレーテッドローターはフィン(柱)の形状が色々と種類がございます。ストレートフィンが最も一般的で多くの車に使われておりますが、レクサスGSシリーズや三菱ランサーエボリューションなどにはカーブヴェーンやピラータイプが採用されております。ブレーキローターはそのサイズや使われる車輌、用途によって様々な形状が使われているというわけです。

  • ■ソリッドローター ソリッドローター
  • ■ベンチレーテッドローター ベンチレーテッドローター
  • ストレートタイプ
    フィンの数は24〜48本が一般的
    フィンの数が少ない→軽量化
    フィンの数が多い→剛性UP

    ストレートタイプ

  • カーブヴェーン
    渦巻き状になっており冷却風を
    スムーズに外部に排出することが出来る

    カーブヴェーン

  • ピラータイプ
    風の流れをさえぎるものが少ないので
    よりスムーズになる

    ピラータイプ

ブレーキローターの精度について

ブレーキローターのエンジニアリングには厚さ変動(DTV)、ランアウト、平行度、バランスなどがあります。

厚み偏差(DTV・・・Disc Thickness Variation)
ディスク厚偏差(DTV)はブレーキローターの摩擦面の厚さに変動がないかどうかに用いられる基準で全円周に沿って各摩擦面での厚みを計測し、
その偏差を表したものです。弊社の基準値は1/100mmです。
ランナウト(Run-out)
これはブレーキローターが車輌に装着された状態で正しく振れがなく回転しているかどうかを測るものです。ローター内側のハブ接触面とパッドが当たる摩擦面の平行度を実際にローターを回転させて計測したものです。弊社の基準値は5/100mmです。赤線部分の平行度をハブ接触面を基準に計測した値です。
  • ランナウト1ランナウト
  • ランナウト2MSF
    (マウンティングサーフィスフラットネス)
  • ランナウト3平行度
MSF(マウンティングサーフィスフラットネス)
ローターのホイール接触面と摩擦面の平坦度を実際にローターを回転させて計測したものです。弊社の基準値は5/100mmです。
赤線部分の平行度をホイール接触面を基準に計測した値です。
平行度
平行度は摩擦面全体に先細あるいは先太が生じていないかどうかを確認する為に行う検査で、摩擦面全体で放射状に測定致します。弊社の基準値は2/100mmです。
バランス
ブレーキローターを回転させたときに重量偏差がないかどうかを確認する為の検査です。
回転部位に偏差があると、振動を起こしたりするので、切削もしくはバランスウェイトを取付ける等をおこないバランス不良を改善致します。

以上の要件の内一つでも狂っていたり、許容値を超えていたりするとブレーキジャダーを引き起こしたりしてスムーズで確実なブレーキングを得られなくなります。また、その他にも大事なエンジニアリングとして、ブレーキローターの摩擦面には2次機械加工を施してブレーキパッドの摩擦材面との馴染みを良くし、新品時から安定したブレーキ性能が発揮できるようにしております。またローターの取付面と熱発生摩擦面との間の接合グルーヴにも工夫を施し、熱放散を最適化することによりローターの歪みをなくし、さらに確実な平行度の実現にも貢献しております。弊社では生産工程の最終検査段階で上記の品質検査を全量全品行っておりますので皆様に安心してお使いいただけるブレーキローターを供給し続けております。

ブレーキローターのアタリ付けについて
■ストリートのみ使用の場合
組合わせるパッドや走行道路によっても異なりますが、一般道で大体300〜1,000Kmほど必要になります。その間、急制動、急ハンドルなど急の付く運転は避けて下さい。また無理矢理、温度を上げるような走行もお控え下さい(ローターを歪める原因となります)。つまり、ごく普通の『安全運転』で走行頂ければ、ストリートでのあたり付けは完了致します。
■サーキットで使用する場合
新品のパッドやローターで、いきなりサーキットで全開使用すると急激な温度変化でローターにひずみやクラックが発生しやすくなります。そして、この歪みがジャダーの原因となります。新品ローターを初めてサーキットで使用する場合、最初の5分間は全開時の50%ぐらいの踏力でブレーキングを行ないながら走行し、一旦ピットイン。最低5分間くらいの冷却時間を空けて、その後10分間は70〜80%の踏力でブレーキングを行なうよう心がけて走行し、再度ピットイン。もう一度10分間の冷却時間を空けて、次は80%から徐々に100%に近づけるブレーキングを行なうようにして頂ければ、サーキットでのあたり付けは完了致します。あたり付け完了後も十分なクーリングを行って下さい。クーリングを怠るとヒートスポットが出来る原因となります。
■イメージとしては・・・
「パッドの成分をローターに徐々に乗せる」イメージで、走行距離を重ねて下さい。
中古ローターに新品パッドを装着した場合は直前に使用していたパッドの成分がローター表面に付着しています。この古いパッドの成分を一度落とす必要がありますので、研磨を行わない場合は、パッドのあたりが付くまでい時間が掛かることがあります。また、組み合わせるパッドとローターによっては、アタリが付くまでジャダーが出る場合があります。
スリットの本数によるメリット・デメリット

一般的にスリットの本数が増えれば増えるほど摩擦係数は上昇しますが、その反面鳴き(ゴーゴー音)が増えたり、パッドの減りが早くなったりします。

スリットの本数によるメリット・デメリット

ブレーキローターの耐熱温度は?

ブレーキパッドと違い「〜℃まで」という表記は非常に難しいものがあります。純正ローターも含めて、SDにしろHDにしろ、FCRローターにしろいずれも基本材質は同じですので、600℃を超えるとひずみやクラックを発生させる危険性は高まります。しかしながら、そのようなひずみやクラックは600℃を超えたら必ず発生するというものではなく、使用状況によって発生したり、発生しなかったりします。

つまり、どのような速度で冷却されたか、600℃以上の温度域でどの程度の上昇/下降が繰り返されたのか、キャリパーを含めてブレーキシステムの状態はどうであったのか、などといった要因が重要です。

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